アラサーが『もう別れてもいいですか』を読了した感想

エッセイ

本記事は垣谷美雨さんの『もう別れてもいいですか』(中公文庫出版)(←左記のリンクはAmazonに飛びます)の書籍についてレビューである。

(画像引用:Amazon.co.jp)

ネタバレを含むので、ご了承の上閲覧いただきたい。

あらすじ

視点主の原田澄子はらだすみこはもうすぐ還暦の女性である。

夫は借金があるわけでも浮気をするわけでもないが、澄子を下女のように扱っていた。

澄子は夫の偉そうな態度や匂いに嫌悪感を感じ体に不調を来す始末。

離婚できたらどれだけ幸せか・・・そんな思いに駆られるようになるが、閉鎖的な地元では離婚などしたらすぐに噂は広まるだろう。

そして何より、自分にはお金がない。

様々な葛藤を胸に、熟年離婚について描いた作品である。

アラサーの読者がこの本を読了した感想

私は現在27歳のアラサーであるため、澄子の娘に近い年齢である。

そのため、この小説を読んだ感想としては時代の差を感じざるを得なかったのが率直な感想である。

実際、澄子の娘は澄子を見て「私は絶対結婚などしない」と言い切っており、その世代の気持ちは痛いほどわかった。

しかし澄子を取り巻く当時の時代の流れ、地方の事情、風潮、そう言ったものが丁寧に描かれており、その時代を生きたことのない私でも当時のジェンダー格差や家父長制を痛いほど感じる物語であった。

平成生まれの私はこの本を読んで「さっさと離婚してしまえばいいのに」と何度思ったことか。

しかしその度に澄子はいうのだ。「お金がない」と。

アラサーの私と、還暦間近の澄子ではおそらく体の自由がどれだけ効くのか、どれだけ頑張れるのか、その度合い自体違うだろう。

給食センターで働く澄子は腰を痛めながらも、時給が数十円相場より高いからという理由で働きつづけている。

彼女と私とではもちろん背負っているものが違う。

娘も二人おり孫もいる。地方に住んでいるということもあり地元の人間からの視線もある。

「離婚」などすれば地元の友人や地元の人間たちから好奇の目を向けられ非難される格好の餌食になってしまう。

しかし、そのように前提条件が全く異なる私がこの物語を楽しく読み切ることができたのは、

「登場人物の網羅性」と「飽きさせない展開」と「圧倒的勝利感」ではないだろうか。

「登場人物の網羅性」について説明すると下記の通りである。

メインの人物は還暦間近の澄子、自己主張が苦手で穏便に済まそうとしてしまう節があり、夫の前でも愛想笑いしてしまう。

友人の千鶴は澄子とは同世代で夫の愚痴を言い合う仲だが、完全に意気投合できない澄子は打ち解けられない違和感を感じてしまう。

その他「女子会」と称した同年代の女性が集まる会には様々な女性が登場するが、それぞれがそれぞれの言い分を持っている。

それらの年代の人物に加え、澄子の二人の娘や、澄子の母親の価値観まで登場し、年代別の価値観が網羅できるようになっている。

「飽きさせない展開」はその名の通り、物語のテンポ感が個人的には心地よかった。

夫と暮らす家、職場である給食センター、女子会、実家、娘たちの家、東京、など場面が切り替わり、それぞれの空気感さえ感じるようだ。

夫から離れるために澄子が実家に荷物を運び出すシーンがあるが、夫が帰ってくるのではないかと、読者である私はヒヤヒヤしたものだ。

そして「圧倒的勝利感」は言わずもがな、夫に離婚を切り出すシーンである。

夫の「ずっと前から離婚したいと思っていた」という言葉を引き出した時、言質が取れた喜びにこちらも嬉しくなった。

その後の夫の萎れていく様子は読者としては清々しいものだ。

この本をおすすめしたい人

離婚に悩む女性にはもちろんおすすめしたい書籍ではあるが、

現在の仕事や生活に何やら満足いっていない方にもおすすめしたいと私は思う。

澄子が離婚を切り出し実家に帰った後の生活は貧しいながらも慎ましく幸せで、希望に溢れる形で終わっている。

「自分らしく生きる」とは月並みな言葉ではあるがそれがどれほど難しくどれほど有意義なものかを分からせてくれる小説だったなと私は感じる。

過去を後悔してしまうことはどうしても避けられないが、じゃあ今の私は今から何ができるのか、できることに目を向けていく、リアルな物語の中にも希望が見える話であった。

本作読了まで、私は丸一日を費やした。

前半は憂鬱な展開が続くので早めに読み切ることをおすすめする。

『もう別れてもいいですか』(中公文庫出版)(←左記のリンクはAmazonに飛びます)

書籍の感想というのは学生以来書いたことがなかったため、

乱文で申し訳ないが、誰かの参考になれば幸いである。

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