2年の同棲にさよなら。

エッセイ

朝8時半。ラッシュを終えた電車に乗り込んだ私は端っこの席に座って一息ついた。

今日は彼女と同棲していた家に行く、おそらく最後の日になる。

最後の荷物を回収するために電車に揺られ、2年過ごした土地へと向かった。

2年という月日。

彼女と家を選び引っ越してきた当初は、この土地に馴染むことができるんだろうかと不安に思ったのを覚えている。

他県の、全く馴染みのない土地。選んだのは、仲介業者に勧められたからというそれだけの理由。

これまで引越しは何度か経験したことがあるが、その度に私はホームシックになり新しい土地に慣れるのには時間がかかった。

ましてや今回は実家を離れて、二人で暮らすということでわからないことだらけ。

しかし不安もそこそこに、好きな人と二人で過ごす日常というのは不安を遥かに凌ぐほど楽しくて仕方がなかった。

慣れない家具の組み立て、慣れない料理、掃除、全ては彼女の為だったから何も苦痛に感じなかった。

1年、2年と暮らすうちに行きつけのお店もできた。近道も開拓した。

段々と「私たちの街」になっていった。

「住めば都」とはこういうことなんだなと思った。

最初の不安も思い出せなくなるくらい私は土地に馴染んで、愛着を感じるようになった。

人の適応力とはすごいものだ。2年の月日を経て、私は私の生活を獲得していった。

拭えない違和感。

時間が経つにつれ商店街や駅にも愛着が湧いた。もちろん家にも。

でもどうしても、心のどこかで「ここではない」という違和感のような気持ちは拭えなかった。

新しい土地に引っ越しても、私は週に1回程の頻度で実家のある地元に遊びにいった。

実家に顔を出す時もあれば、ただ地元の風を感じに行くだけの時もあった。

地元の駅に降り立つと感じる、この上ない安心感。

やっぱり、どうしても、「帰ってきた」と感じてしまう。

今私が家と呼ぶべきは、彼女と住むあの家のはずなのに。

やはり予想通り、私のホームシックが顔を出したようだった。

別れを切り出された時の本音。

彼女から「別れたい」と切り出された時、もちろん私は別れたくないと思った。

だがすぐに「地元に帰れる」と思ってしまった自分がいたのも確かだった。

地元に何があるわけでもない。何か譲れないものがあるわけでも、魅力的な何かがあるわけでもなかったが、ただただ「地元に呼ばれている」という感覚だけがあったのは間違いない。

一旦別れを受け入れた私に、彼女は「本当は帰れるの楽しみにしてる?(要約)」と言った。それほど楽しそうに見えたのだろうか。

彼女と一緒にいたかった気持ちは確かにあった、別れたくはなかった。

しかし地元に帰れるということは私にとってこの上ない喜びだった。

何がそんなに私を惹きつけるのかは、私にもわからない。郷愁だろうか。

最後の荷物をまとめて、部屋に別れを告げる。

そんなあれこれを振り返りながら電車に揺られていると、2年を過ごした土地に到着した。

家までの道をゆっくりと歩き、風景を目に焼き付けるようにした。

家について荷物をまとめると、私は部屋に「今までありがとう」と告げた。

そこかしこに、彼女との思い出が染み付いている。

だいぶ心の整理がついたとはいえ、流石に涙が出そうだった。

愛着というものは抱くものではないな。ろくなことがない。

こうして別れなければならなくなった時に、辛くなるだけだから。

部屋を出る時になり、「さよなら」と言おうかと思ったが、なんだか違う気がして・・・

迷った挙句「いってきます」と告げた。

誰もいない家に、私の声が吸い込まれた。

この2年、泣いたり、笑ったり、いろんな思い出が思い出される。

それでも、もう決まったことだから。

前に進まなければならない。私は扉を閉めて、しっかりと鍵をかけた。

今日の終わりに。

2年。あっという間だった。

大人になると時間の経過を早く感じるというけれど、

おそらく楽しすぎたのだ。楽しすぎて、2年なんてあっという間だった。

街は変わっていく。彼女と行った行きつけの店も、あのスーパーも、そもそもアパートすらも、いずれは無くなってしまうのだろう。

諸行無常。美化された過去に縋っていてはいけない。

時の流れに置いていかれないように、私も前を向かなければ。

そう思った1日であった。

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